紀行文:青森県同市・旭町(森紅園)遊郭跡を歩く


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その土地の過去を知る人にとっては哀れなほどに、町割そのものが過去を留めていた。

地図を見ればそこだけ四角く整然と道が穿たれている。

郭。くるわ、だ。

青森駅から秋雨の中、徒歩10分ほど歩く。訪れると遊郭跡の入口には「宝来町入口」との道標が立っていた。

現在の街には、遊郭から転業したと思われる旅館が二軒ある。

目抜き通りには、町名を冠した旭旅館。一見コテージのようだが、破風屋根の建築様式をなぞっている。斜向かいには、アパートだったと思われる木造建築の廃墟ぶりが凄まじい。

もう一軒の旅館は光陽館という。名前を検索すると、出張型風俗の派遣実績有ホテルとして出てきてしまう。宿の主はそれを知っているのだろうか。
光陽館の隣には旭の楽園と壁に記されたスナックの集合体がある。

街は住宅街と変わりつつも、未だ僅かな名残を留めていた。

ひと通り区画を眺め終えた。

最後に薄汚いアパートを見つけた。
ひっくり返した石の裏のように、コンクリートの壁が湿気を帯びている。

雨天にも関わらず、ババアがパジャマを干していている。
老婆にしてピンクのパジャマ。

この天気であればパジャマは乾くはずがない。
にもかかわらず干している。

日常の繰り返しが習慣化され、習慣をこなす事が目的となっていた。

ババアは痰が絡んでいるらしく、しきりに咳き込んではいたが、痰の切れる様子はなかった。

用事が済んだババアがドアの奥に消えて行く。
それでも戸口の中から咳き込む音が聞こえてくる。

帰ろう。

入口の案内板は誰のために建てたのか?歩きながら、ふとそう思った。
今更ここに来る者もそれを待つ者も居ない。

遊郭跡から出るため、入口に引き返す。
この街は入口しかなく出口を持たなかった。

ここに住むババアには、喉に絡みついた痰を切る力も残されていなかった。

おわり。
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「紀行文:青森県同市・旭町(森紅園)遊郭跡を歩く」への2件のフィードバック

  1. 空白さんこんにちは。書き込みありがとうございます。

    上記サイトはありがたい存在ですね。

    柳原遊郭に見切りをつけた業者が函館大門遊郭へ
    移転とありますが、当時、移転の融通が
    それなりに効いたんですね

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