神奈川県横須賀:柏木田遊郭「遊女の地下牢 山口瞳『血族』から引用」


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神奈川県横須賀に有った遊郭「柏木田」を舞台にした山口瞳の小説『血族』に興味深い一節があります。引用してみましょう。

「祟りなんですよ」
町の人が言った。
「たたり……?」
「絶えてしまうんです。この町の、柏木田遊廓の人は、一人も残っていません」
「どうしてですか?」
「さあ、どうしてでしょうかね。なにしろね、女郎が病気をしますと、地下に座敷牢があって、そこへ入れて、何にも食べさせずに、もちろん、医者にも見せないんです。体に蛆が湧いてくるんです。それで、死んでしまうと、夜中に捨てに行くんですからんね」
「どこでも、そうでしたか?」
「地下の座敷牢は、どの店にもあったそうです。まあミセシメってこともあるんでしょうけれど……。そんなふうですからね。子孫が無事でいるわけがないんです。祟りがありましてね。だから、その家も、絶えてしまったんですね」

当該小説を読むと、柏木田遊郭の妓楼関係者が地元から白い目で見られていたことがよく分かります。
妓楼の悪事が語られる上記引用はもっとも衝撃的な箇所の一つです。ただし、その悪事が事実であったかというと、正直噂に尾ひれがついていないとは言えないと思います。

さて、様々な遊郭跡を訪れると、遊郭があったことを表沙汰にしたくない土地、反対に過去を明るく語る土地、両極端あることに気付きます。

これはなぜでしょうか?

柏木田遊郭は海軍相手に開かれた遊郭です。地元の住人は相手にされなかったでしょう。反対に近くの安浦遊郭は漁港に面して地元密着型の遊郭でした。結果的に柏木田遊郭は衰退し、安浦遊郭は繁栄しました。

一概に遊郭と言っても、軍という虎の威を借り地元の人と軋轢を生んでいた遊郭もあれば、地元密着型の廉価な遊郭もあった。客層が全く異なります。

当時の地元との関係値、言い換えれば、遊郭のお客は誰だったのか?が、現在に及ぶ地元民のスタンスに大きく影響を与えているのではないでしょうか?

その点、柏木田遊郭を舞台にした『血族』は、その地元との関係値を端的に表したエピソードを含む作品です。

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