紀行文:岡山県・伏越遊郭跡を歩く


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ここを訪れるのは二回目だった。

一回目の訪問でもカフェー建築を流用した旧岡部病院はすでに取り壊されており、結局、見ることはできなかったけれども、空間の異質さに惹かれて再訪したかった。

線路を超えて区画に入ると、隧道の様に妓楼が両脇からのしかかる。

抜けた先、二叉にあった旧岡部医院跡は更地のままで、半年前に訪れた時と同様、売地の看板もまたそのまま据えられていた。

転業したすずらん旅館が見たくて左折する。

途中、ゴミ屋敷と化した元妓楼に繋がれた小型犬が吠える。

伸びきった体毛が自身の汚れで酷く絡まっている。絡まった毛の奥から黒目が鈍く光っている。吠えるのをやめない。気が狂っているのかもしれない。放置されたストレスのためか。

その軒先を見渡すと、他にも小型の籠が積み上げられており、狭い中には猫達が窮屈そうに詰め込まれている。すし詰め。

こちらの姿を捉えると柵の格子に手を掛け闇雲に近づこうと徒労に終わるもの、目線は送るが表情の無いもの、無関心なもの。大小、老若併せて10匹ほど。

この間、犬はまだ吠え続けている。無視して、すずらん旅館へ向かう。

前回の訪問では気が付かなかったが、すずらん旅館は想像以上に廃屋化が進んでいた。雨戸を閉めていないせいで、格子の奥の障子はほぼ全てが剥がれ落ち、裸電球が格子の奥に垣間見えた。

最初の訪問時よりも変化があったように思えた。しかし、よくよく思い返してみれば、そうでは無かった。ただ、土地の惨めさにまで目が届くようになっただけの話だった。

「法界」と刻まれた井戸も変わらずそこに有った。

生活保護の住宅も変わらずそこに有った。

売れない更地も変わらずそこに有った。

結局、土地は変わっていなかった。

いや。気の狂った小型犬と、それぞれに通行人を眺める猫達は、前回も居たのだろうか…?

 

帰ろう。

 

思い出せぬまま駅へと歩を進めた。

ふと、犬と猫達が、下男と女郎達に思えた。慰めを供するが、その自身、慰めを知らない。

犬と猫達は前から居た、と思うことにした。

あの命たちを思えば、変化はあまりにも不憫であり、不変は憐憫に過ぎないと知ってはいたが、こちらを眺めるあの目には、憐憫と言えど決して慰めが不要なものとは思えなかった。

 

おわり。

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