紀行文:広島県・糸崎松浜遊郭跡を歩く


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ここには初めから思い入れがあった訳ではなかった。むしろ無関心だった、と言っていい。

ただ、せっかく経路の途中にある遊郭跡地だから、とせせこましい理由で立ち寄ったに過ぎなかった。

肝心の遊郭跡は糸崎駅から程近い。苦もなく辿り着くことができた。

それまでなんら心構えもしていなかった。だけに唐突に遊里の雰囲気が色濃く残る場所に出くわしたことで面食らっていた。

中心にあったのは、今まさに朽ちかけてつつある妓楼だった。

主人が不在となり、朽ち果てるのを静かに待つ妓楼…。

かつてそこで多くの情が折り重なり交じわった。一夜限りの交わりとはいえ、その殷賑を極めたであろう往時からすれば、今の姿はあまりにも淋しい。

ただ、往時から今に至るまで『儚さ』には変わりがなかったことだろう。

だとすれは、ここは昔から淋しい場所だったのかもしれない。

帰ろう。

駅への帰路、訪れる前後で自身の気持ちに変化があったのか計っていた。この土地への思い入れはさほど変わりがなく、一定の淋しさ以上のものは感じなかった。

発車ギリギリのところで電車に乗り込んだ。

自分が軽薄なのかと疑ってはみたが、情というのはそんなものかもしれないな、という思いの方が優っていた。

寄り添う時間が短ければ、情も湧かない。まさに遊郭がそうであったようにだ。

電車は走り出したが、車窓を眺めようとは思わなかった。

おわり。
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