『全国花街めぐり』を復刻しました 〜芸者は身体を売っていた〜


『全国花街めぐり』(昭和4年)を復刻しました。
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書誌情報

・著  者:松川二郎
・復刻編集:渡辺 豪
・発  行:カストリ出版
・仕  様:B6 / 全811ページ(上下二分冊) / 並製 / 口絵カラー・本文モノクロ / カバー

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昭和期を代表する遊廓・赤線ガイドブック3部作シリーズの完成

時系列的に遡れば、『全国女性街ガイド』(昭和30年)、昭和戦前期の『全国遊廓案内』(昭和5年)、『全国花街めぐり』(昭和4年)の復刻版が、ようやく出揃ったことになります。2014年に復刻作業を始めたときから、この3部作は復刻する心づもりでした。全国の遊廓および赤線(女性街)を網羅的に扱った文献としては、昭和期を代表する3部作とみたからです。

芸者は身体を売っていた

当著の最も見逃せない点は、当時の芸者の職業的性格が露骨に記録されていることです。現在、芸者の職業的性格を喩えたものとして、しばしば耳にする言葉に「芸者は芸は売っても身体は売らない」というものがあります。しかしながら、著者松川は、全国殆どの花街に於いて、芸者の売春価格を記載しています。同時代の芸者を取り扱った多くの作品にも、芸者が実質的な娼婦であるとして描かれており、芸者が実質的な娼婦的役割を担っていたことは、当時としては暗黙の了解でした。(※1)

800ページ、全国180ヶ所超の大著 花街・遊廓・私娼窟の情報も記載

『全国花街めぐり』というタイトルから、当著は芸妓中心のいわゆる花街のみにテーマを絞って取り上げた文献と思われがちですが、同時並行的に遊廓の情報も掲載されています。それまで芸娼混在型の紅灯街が多かったものの、明治33年に発布された「芸娼妓取締規則」によって、遊廓(貸座敷免許地)の空間的な囲い込みが規定され、当著が刊行された当時は、芸妓中心の花街と娼妓中心の遊廓との分離政策が完成しつつありましたが、藝妓も娼妓も元を辿れば、商圏を同じくする同業他社あるいは関係会社のような関係で、著者松川も花街をテーマとしながら、遊廓も花街の一部として記載し、当著では花街の案内と並行的に、近在の遊廓も紹介しています。

収録地点は以下。赤字は、遊廓、娼妓主体の花街、不見転芸者の多く居る花街、私娼窟など。

ーーーーーー東北地方ーーーーーー

宮城県|仙台・仙台小田原遊廓仙台ゴケ町私娼窟・石ノ巻・気仙沼・鳴子温泉
青森県|八戸・八戸小中野遊廓・弘前・弘前北横町遊廓
岩手県|花巻温泉
山形県|山形・山形小姓町湯田川湯野浜・酒田・酒田新地
秋田県|秋田・横手・横手馬喰町遊廓・角館・角館西勝楽町遊廓・秋田・秋田常盤町遊廓・土崎・土崎稲荷町私娼窟・能代・能代新柳町私娼窟
福島県|東山温泉

ーーーーーー東  京ーーーーーー

東京都|新橋・柳橋・浜町・芳町・日本橋・赤坂・池之端・浅草・神楽坂・富士見町・四谷荒木町・四谷大木戸・麻布・白山・駒込神明町・湯島天神・講武所・烏森・新富町・霊岸島・深川・向島・吉原遊廓洲崎遊廓新宿遊廓品川・五反田・目黒・渋谷・玉川・二子神明町・調布・玉の井私娼窟・青梅・八王子・田町遊廓

ーーーーーー関東地方ーーーーーー

埼玉県|松山・浦和・中野原新開地・大宮・秩父・原谷村遊廓
千葉県|木更津・鴨川・松岸遊廓潮来遊廓
茨城県|水戸・下市第一料理店組合・下館
栃木県|宇都宮・剣の宮私娼窟河原町遊廓・足尾・足尾ダルマ屋地帯大田原遊廓
群馬県|伊香保・伊香保湯女・下仁田・下仁田乙種料理店・磯部・妙義
山梨県|甲府・穴切遊廓・下諏訪・御田町遊廓

ーーーーーー中部地方ーーーーーー

新潟県|高田・栄町遊廓・柏崎・新花町遊廓・三条・三条遊廓・新潟・新潟十四番丁遊廓常盤町遊廓脱奔小路
長野県|木曽福島
富山県|富山・富山東遊廓・高岡・高岡羽衣新地高岡和田高岡郊外大門・滑川・常盤遊廓・魚津・魚津旭新地・小川温泉・神田新地
石川県|山中温泉・山中(シシ)・片山津温泉・片山津(カモ)
静岡県|浜松・浜松二葉遊廓・静岡・静岡二丁町遊廓・伊東温泉
愛知県|名古屋・中村遊廓・犬山・岡崎・岡崎東遊廓
岐阜県|岐阜・金津遊廓

ーーーーーー近畿地方ーーーーーー

三重県|宇治山田・古市遊廓・新古市
大阪府|南地五街・曽根崎・新町・堀江・松島遊廓飛田遊廓・住吉
京都府|祇園・祇園乙部・先斗町・木屋町・下河原・宮川町・島原遊廓五条新地新京極ポン屋
奈良県|奈良・宇治・木辻遊廓

ーーーーーー中国・四国地方ーーーーーー

広島県|広島・広島西遊廓広島東遊廓宮島
鳥取県|鳥取・鳥取瓦町遊廓美保関
島根県|松江・松江新町遊廓
愛媛県|松山・道後温泉・松が枝遊廓

ーーーーーー九州地方ーーーーーー

福岡県|博多・博多新柳町遊廓
熊本県|熊本・熊本二本木遊廓
大分県|中津・耶馬溪・別府・別府濱脇遊廓・大分・大分菡萏遊廓下之江遊廓・佐伯・日田
宮崎県|延岡・延岡麥原遊廓
長崎県|長崎・長崎丸山遊廓

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図版300点を収録

復刻に際しては、原著に収録されている図版(街景、芸者ブロマイド、地図等)も再収録しています。なにぶん戦前期の写真であるため、不鮮明なものも少くありませんでしたが、ノイズを除去するなど可能な限り改善に努めました。(画像の改変とならないよう、シャープネス・ノイズ除去は最低限に留めました) 戦前なりの撮影技術の限界とはいえ、収録されている写真はどれも合焦し、街景なども当地の雰囲気の伝わる質の高い写真ばかりで、松川の写真収集力・セレクト力の高さが分かります。(当時の花街・遊廓の絵葉書には、商業的に販売されていながらも、ピンボケしたものも多いのです)
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組版も原著通り

当著が発行された昭和4年は、2016年現在から80年超の隔たりがあり、当著を斜め読みしただけでは当時の風俗や描き込まれた街景を正確にイメージすることがやや困難になってきています。今回の復刻作業では、現代語(現代仮名遣い、新字体)に直すことなく、敢えて旧字体・異体字、歴史的仮名遣いのままとしました。その方が結果的には時代風俗を体感しやすいものと信じたからです。私自身、復刻作業の中、文章を読み進めていくと、その豊饒さに気づくようになりました。

また、そういった当時の雰囲気を再現するためにも、組版(文字や図版のレイアウト)も原著通り再現することとしました。これによって本文750ページ、後述する附録記事も含めると800ページ超、6センチ近い厚みとなりました。(この厚みにより、本の開きが悪くなるため、上下巻の分冊としました)

復刻作業には2015年10月から取り掛かり、翌年3月に作業を終えました。約半年を要したのは、私の手際の悪さや勉強不足である点は疑いのないことですが、いずれにせよ、復刻する価値のあるものに仕上がったという確信は得ることが出来ました。

有用な附録記事

今回、本編の『全国花街めぐり』に加えて、松川が遺した貴重な原稿も3点収集し、収録しました。それぞれ以下。

附録記事1 『後篇 全国花街めぐり』

実はあまり知られていないかもしれませんが、当著『全国花街めぐり』は、750ページ・35万字という圧倒的なボリュームにも関わらず、前篇に過ぎません。松川は当著あとがきにて前篇を上回る規模の後篇執筆を予告しています。『後篇 全国花街めぐり』は、その予告編です。予告編とはいえ、14ページ・3箇所の花街を紹介した読み応えのあるものです。(花街は三重県松阪市、京都府京都市伏見区中書島、福島県郡山市<赤木町遊廓含む>を収録)

附録記事2 『諸国花街風景座談会』

戦前の郷土風俗史をテーマとした雑誌『郷土風景』(昭和7年)に収録されていた、松川二郎を含む識者による「花街」座談会です。座談会出席者は以下の通り、
松川二郎(当著著者)
近藤飴ン坊(川柳作家)
氷見德太郎
平山蘆江(都新聞記者)
横山健堂(評論家)
松崎天民(『淪落の女』著者)
野口雨情(作詞家)
谷川要史(『郷土風景』主催者)

全19ページ。なお、当座談会は記録していた速記者が内容のあまりのえげつなさに納品を拒否する事態に陥ったという曰くつきのものです。

附録記事3 『春を売る女の地方色』

雑誌『新小説』(大正15年)に掲載された松川による随筆。13ページ。タイトルの通り、全国に分布する売春婦の特徴を綴ったもの。美保関、平戸田助、鳥羽はしりがね、木の江、筑波、妙義温泉、潮来など全国縦断して相当多岐に渡って紹介しています。

以上、三編はこれまで復刻されことがなかったもので、花街・遊郭を調査する方には大変有用なものと思います。

※1:井上章一『愛の空間』に詳しいので、ご興味ある方はご覧下さい。

「『全国花街めぐり』を復刻しました 〜芸者は身体を売っていた〜」への6件のフィードバック

  1. はじめまして。
    私は先日、遊廓部さんの復刻された「全国花街めぐり」「全国女性街ガイド」「全国遊廓案内」
    の三部作を購入させていただきまして、とてもドキドキしながら拝読させていただいて
    いる者です。
    ページをめくるたびに原著への敬意が伝わってきて・・まず、手を洗ってから大事に
    読みすすめております!

    実はまだ、まったく街歩きなどの経験もなく、色街探訪をされている方のブログなど
    を見て想像をしている毎日なのですが・・・
    先日、栃木県を訪ねた際に奇妙な感覚を感じた町並みがありまして
    もしお時間があればご意見をいただきたくコメントさせていただきました。
    具体的には、

    https://www.google.co.jp/maps/@36.550597,140.0616605,3a,75y,4.09h,85.15t/data=!3m6!1e1!3m4!1sarsyejRuQLWj19geeRyHgQ!2e0!7i13312!8i6656?hl=ja

    栃木県芳賀郡芳賀町祖母井、県道61号線沿い。祖母井神社から北東に伸びる
    数百メートルの通りです。
    写真でこことお伝えできないのがツライところですが、カフェー建築と思われる
    デザインの凝ったバルコニーや、飲み屋の小屋根、アールのある部分など、
    怪しい・・・と感じました。
    (ストリートビューに見られる町並みは先週みた時のそのままの風景でした)
    googleや、いただいた三部作などを見ても、宇都宮や真岡などの近いエリアには
    かつての色街の存在を確認できましたが、祖母井(うばがい)にはどこをみても
    それらしい、町並みのあったことを示唆している記述が見つからず、
    もやもやがつのっております。
    (祖母井は)かつての門前町で交通の要衝ということは事実としてあるようなので
    なにかあったのではと想像していますが、初心者ゆえ確信がもてません・・・

    リンクのストリートビュー同様の風景ですので、もしよろしかったらご意見を
    いただけましたら嬉しいです。
    不躾に長文失礼いたしました。

    1. コメント下さいまして、ありがとうございます。
      また『全国花街めぐり』お求め下さいましたこと、重ねてお礼申し上げます。

      近刊の『全国花街めぐり』は、著者松川の苦労が偲ばれる佳作ですね。

      さて、芳賀町祖母井の件ですが、
      見るからに交通の要所といった感じですね。

      祖母井神社から南北に伸びる県道61号線を拝見したところ
      私には遊廓や娼家らしさを思えるところはありませんでした。
      建物も当時のアールデコ様式などはなく、古くても昭和40年代以降ではないでしょうか。

      ただ、この南北の通りが祖母井神社の参道として発達した通りのように見えますし、
      かつては賑やかだったのだと思います。
      また蛇足ですが、大きな神社の近くには何故か遊廓があることも多かったりするので、
      往時のことをあれこれと想像しながら街を歩くのは、楽しいものですね。

      文献などで調べたものではないので、上は間違っているかも知れませんが、
      ご参考まで。
      お役に立ったか分かりませんが、よろしくお願いします。

  2. 失礼しました。

    ×祖母井神社から北東に伸びる
    数百メートルの通りです。

    ○祖母井神社から南北に伸びる
    数百メートルの通りです。

    と訂正させてください。

  3. お忙しいところお返事ありがとうございます。
    全国花街めぐりはコラム的な要素が多く、読み物としても読み応えがあります!

    初心者の気づきにご丁寧にありがとうございます。
    本来、遊廓案内に載っていない区域ですし遊廓部さんの
    ご指摘どおりやはり見間違いかもしれません。
    これからカフェー建築を実際に見に行って研究してみたいとおもいます。
    アールデコ調の様式という特徴、ひとつ勉強させていただきました。

    ただ、最後に一点だけどうしても気になってしまっていることがあるのですが

    https://www.google.co.jp/maps/@36.550425,140.0616885,3a,15y,303.1h,108.88t/data=!3m6!1e1!3m4!1sAvJSZiSOYhgOGePE-YqbVw!2e0!7i13312!8i6656?hl=ja

    https://www.google.co.jp/maps/@36.550425,140.0616885,3a,15y,135.15h,100.92t/data=!3m6!1e1!3m4!1sAvJSZiSOYhgOGePE-YqbVw!2e0!7i13312!8i6656?hl=ja

    2つのリンクは上の通りにある、建物の二階のバルコニーの拡大なのですが、
    曲線を描く柵のラインがどうしてもひっかかっております。
    こういう様式というものはカフェー建築特有のものではなく、昭和40年代
    には普通にあるものなのでしょうか。
    お手すきの際にでも見ていただけたら幸いです。
    何度も申し訳ありません。

    1. 頂いた鉄柵の意匠ですが、
      その手の意匠について浅学なので正確なことは申し上げられませんが、
      一般にどこでも見受けられるものと思います。

  4. お返事ありがとうございました。
    どうも古い建築物同士の微妙な差に気が付く
    審美眼というのか、目利きがまだ全然自分にはないようで
    お恥ずかしいかぎりです(汗)
    これから金沢に行く予定があるので、石坂など
    探索して実際に見てきます。
    拙い質問にお付き合いいただきありがとうございました。
    今後の、復刻期待しております!

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