『静岡県の遊廓跡を歩く』を復刻しました


『静岡県の遊廓跡を歩く』を復刻(再販)しました。
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書誌情報
・著  者:八木富美夫
・発  行:カストリ出版
・仕  様:B6 / 100ページ / 並製 / 口絵 / カバー

本書は静岡県浜松市在住の民間郷土史家、八木富美夫氏の作品です。氏は大正11年生まれ、2016年現在94歳で、今もその研究意欲は衰えることなく、地元の鋳造物などを踏査しておられます。

初めて本書に触れたのは、遊廓愛好・研究の同志、花町太郎さんのブログでした。そもそもこういった本が存在したことに驚きました。とりわけ昭和40年代と思われる掛川市の十九首遊廓跡の街景には、ぞくぞくとしました。

さっそく本書を拝見するために、静岡県立図書館まで赴き、拝読しました。現地で地元の方から提供して貰った当時の写真などに加えて、主に1990年から2010年にかけて、ちょうど誰も静岡県内にある遊廓跡の記録を残していなかったエアポケットのような時期の内容で、大変貴重なことは疑いようのないものでした。

八木さんにお手紙を差し上げたのが平成26年、翌平成27年の夏にお会いしました。直接お話を伺って分かったことは、調査内容はもとより、その調査プロセスとその集大成である書籍化の方法も、圧倒的に突き抜けていたことです。

静岡県狭しと自家用車で現地のフィールドワークへ出掛け(運転は奥さん)、現地の人に聴き取り、デジタルカメラで撮影。帰宅後はワードで原稿作成、その原稿を自宅のインクジェットプリンターを用い、書籍化する部数の分だけ印刷。本のページ順に重ね合わせて、そこから先の製本行程のみは業者へ委託。制作する部数は20部程度で売るつもりはなく、同好の士に配ったり、近在の図書館へ納本することが目的だそうです。本書も静岡県内の図書館6館にしか所蔵がありません。

まさに100パーセント、手製の本。団塊の世代がやっとスマートフォンを使い始めていることも珍しくない今、その親の世代の大正11年生まれが、デジタルカメラやパソコンなどのIT機器を使用して、行っているわけです。八木さんは、元出版関係とか学校教員ではありません。勤めていた頃は、一般的な会社員です。IT時代なんて関係なく、戦前世代は強い…。

今やスマートフォンで撮影した写真すら、二昔前の高級デジタルカメラを上回る画質で、アプリを使えば本も容易に作ることができます。Webでは、ブログというダイレクトにパブリッシングする仕組みも一般化されました。ITの進化は、記録を残すこと、発信することのハードルを大幅に引き下げたことは間違いのないことですが、そのどの記録者・発信者よりも、この大正11年生まれが作り上げた本の熱量は勝るとも劣りません。圧倒的です。

本書中に使用されている写真も、今の目から見れば、必ずしも高品質のものではありません。しかし、八木さんの泥臭い研究プロセスの熱意を伝えたくて、敢えてそのままとしています。(掲載写真にしばしば入っている横スジは、インクジェットのノズル詰まりによるスジなのです)

出版周辺の技術・ノウハウの成熟によって、見た目の良い本をつくることは容易です。出版不況と言われて久しいですが、改めて「本をつくることは何か」「記録を残すこととは何か」を自分自身に問い直したい作品に出会えました。

初めてお宅へ伺ったときも私を暖かく迎えて下さり、屋根裏部屋の書斎で、「ワードで写真を配置すると、文章が動いてページがグシャグシャになっちゃうんだもんな〜(笑い)」などと、ユーモアも交えてお話し下さいました。決してIT機器を使いこなしているわけではなく、90歳を超えた今も、新しいことにチャレンジする八木さん。

八木さんは私が最も敬愛する研究家のお一人です。
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著者近影

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